【ゲストブックレビュー(3月マンスリー企画)】MDの巨人お薦め 思考を刺激する図書(最終回)
MDの巨人「Tさん」が、最近マーケティングを考える上で刺激になった本を紹介します
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『百職百人・京の匠』 淡交社編集局
修業を重ね、体で憶えた技を伝える熟練の技が冴える京の匠百職百人。こだわり・がんこ・きっぷのよさで京の伝統技術を未来へと受け継いでいく匠たちの仕事ぶりを紹介。
この本を読むきっかけになったのは、中にとりあげられている京都西陣の一番古い藍染屋さん、「愛染工房」の宇津木憲一氏に会ったからです。全く藍染というものを知りませんでした。本当は染めていないんです。これ、顔料なんですよ。だから何十年も変色しない。ラピズラズリみたいなもんです。しかも、自然に発酵させて乾燥させるので自然とつきあうことを覚えなければならず、でも、ジャケットや、スカートや、マフラー、テーブルクロスといったものも生まれています。色もgrayishや、べんがら色っぽいreddishや萌黄色っぽいものも最近ではできています。この技法はイギリスやアメリカの大学で宇津木さんは教えてきています。
青の色の深みと広がりと。自然を活かした日本では再現できない素晴らしさを。
つい、藍のジャケットを清水寺には行かなかったんだけど、飛び降りた気分で購入してしまいました。。。。
世界に通ずる日本の技術や表現の奥深さを知りたい人に~。
マスプロダクションの企業でもちらちらとこの手のエッセンスが開発や生産現場に存在していたりします。それに気付いて戦略的に拾い上げて発信させていくのもマーケターの力量だと思うのです。
ちなみに「藍染め」ではなくて、「愛染」工房となっているのは、谷崎潤一郎がこのお店のひいきで来られていて命名されたから。お店には谷崎潤一郎自記筆の看板「額」が掲げてあります。
『ああ知らなんだ こんな世界史』 清水義範(著)
ああ、清水さんて面白い。何回もそう思います。
ヨーロッパの裏側=イスラム圏の歴史を知ると、世界史の全貌が理解できる!というのがこの本の売りになっています。
私達、グローバル化といいながら実は殆ど目をつぶって運転している毎日・・・。
オリンピック候補地で注目されたトルコが実は日本を大好きだったって記事が最近ありましたね。ポスポラス海峡の地下鉄工事に日本が協力し安部さんが訪問したり。。
そういえば隣国ギリシャに僕は熱波の中、グループインタビューに行ったことがあるけど、オリーブとぶどうは沢山食べてたけど、その土地のことは殆ど学んで帰らなかった。。。
この本で愕然とした部分があったんだけど、AsiaとEuropeという言葉の由来の部分。ギリシャ時代にさかのぼる。Asuとerebという言葉だ。前者は「日のいずる所」で後者は「日没する所」の意味。つまりギリシャ人から見て東の場所をAsuと呼び、西をerebと呼んだらしい。それがAsiaとEuropeになった。当然その当時のギリシャ人は中国や日本のインドも知らなかった。でもその時からAsiaと呼んでいた。
たまたまそういういい方から、アジア大陸とか、ヨーロッパ大陸とかいうようになっただけ。もともと大陸としてはAsiaもEuropeも地続きなわけで、ユーラシア(Eurasia)大陸なんて「最近」いうようになった。
ふと思い出したんだけど、そういえば中東のサッカーチームがAsiaブロックに入っていたりするよね。。。 そういうことね。
どこを基点において見るかで、いい方や定義が変わってくるし、基点ですら歴史と共に変わっていくということだ。 最近は東海なんていうのもあった。。。
何でこの本とりあげたのか?っていうと、私達、コミュニケーション上、どういう言葉を使うのかはとっても大切だからだ。でもその言葉は今だけで切って見ていては深い発信力にならないし、また、深く間違うことにもなる。それをマーケターは問われている。
【ゲストブックレビュー(3月マンスリー企画)】MDの巨人お薦め 思考を刺激する図書(第3弾)
MDの巨人「Tさん」が、最近マーケティングを考える上で刺激になった本を紹介します
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『入門 スポーツ科学』 スポーツライフをエンジョイするために
杉浦 雄策(著)
1988年順天堂大学大学院体育学研究科修了(運動生理学専攻)。2008年横浜市立大学にて医学博士号取得。2009年より明海大学教授。スポーツ科学講義、スポーツ科学演習、健康・スポーツ講座等担当。現役時代は、陸上競技短距離選手。日本臨床スポーツ医学会、日本体力医学会会員。「トップスプリンターのハムストリング肉離れに関する研究」等。
Hらしいスポーツ×生活者のムーブメントを起こそう!
2020年に東京オリンピック開催が決定。スポーツ切り口の国民のムーブメントとは何だろう? スポーツを一部の人のものや、視聴コンテンツの対象として楽しむだけではなく、生活者が日々の生活の中に取り入れて自分ゴト化していくことではないだろうか?
2020年に向けての追い風「スポーツ」を中心において様々なジャンルとの掛け算を戦略的にガンガン起こして行かなければならない。それも生活者視点で。「スポーツ」×「衣類」、「食品」、「お菓子」、「トイレタリ」、「教育」、「IT」、「観光」「家庭空間」・「駅前空間」・「職場空間」・「学びの空間」、、、、、 でも、ちょっと待ってください。スポーツってどういうふうに生活者に見える化して自分ゴト化できるんだろう?
どうしたら日々、より背中を押してくれるんだろう? 仲間同士盛り上がっていくんだろう? Jawbone とか、スマホのアプリでもどんどん「見える化」されてきているみたいだけど、本当にスポーツと自分の体についての見える化になっているのだろうか?
「身体組成」、「筋力」、「持久力」、「柔軟性」これらが健康に関する体力要素です。
スポーツに関わることによって生活者がより健康にhappyになって長生きできることをデザインしていきたいんです!
この先生、色々な大学の超人気授業の先生で、マイナースポーツの目の付けどころ、楽しみ方をわかりやすく教えてくれたりします。生活者のスポーツにというのが彼のモットー。小谷実可子さんのご主人ですね。
【ゲストブックレビュー(3月マンスリー企画)】MDの巨人お薦め 思考を刺激する図書(第2弾)
MDの巨人「Tさん」が、最近マーケティングを考える上で刺激になった本を紹介します
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『柳宗理 エッセイ』 柳 宗理(著)
『柳宗理 さあ、よい仕事をしよう』 別冊太陽
「デザインでつくるのではなく、作ることでデザインが生まれてくる・・」
最初は図面がない食器もあるし、試作品段階で(生活者の)使い勝手を追求する。。。
と柳宗理は言っています。色々な示唆が含まれていて、今でいう「プロトタイピング」の意義についても触れています。考えるよりも手が動くし、その時に徹底して生活者のキモチで考えていじれと。それをやりながらデザインは出来ていく。「本当の美は生まれるもので、つくり出すものではない」という記述があります。また、「五感」の大切さも秘められていると感じます。また、「アノニマスデザイン」(無名性のプロダクトデザイン)の意味についても触れている。(ブランドとか)(人の名前とか)に(頼った)価値ではダメ。
例えば登山用のピッケルはシャフトの形状、石突の鋭さ等、素材、強度、機能、全体のバランスがクライマーの命に直接関わる。誰がデザインしたのか分からない、あるいはデザイナーの参加さえ許されないものの中に美的に素晴らしく、「長く使い続けられている」プロダクトがあり見習うべき。「その土地土地の生活の用に準じて、忠実に素直に作られている健康で平穏な美しさ」。美を意識しないからこそかえって美しいものがある。
他にもアノニマスデザインの例として、はさみ、野球のグローブとボール、そろばん、フラスコ、ビーカー、スクリュー、足袋、ジーパン、たわし等。伝統的な「用即美」の境地とほぼ同一のもの。我々マーケター、広告に関係する人達は、どれだけノイズを世の中で上げるか?を職としてきたかもしれないが、サステナブル、継続性といった視点での戦略、アウトプットがますます求められていると思う。
かぐや姫の物語(高畑勲 2013)
日本最古の物語といわれる「竹取物語」に、高畑は「創世記」を重ねて見せた。
月(=エデン)の住人であったかぐや姫(=エヴァ)は、罰を受けて月を追われ、地球に生を受けなおす。そこは日本のかつての楽園=里山である。幼少時のかぐや姫は奔放に野山を駆けまわり、川遊びに誘う男児たちの前で恥じらいなく全裸を晒す。
ある日、悪童たちと畑から果実を盗んだかぐや姫は、藪に隠れて捨丸(=アダム)と共にそれ(=禁断の果実)を食べる。食べた瞬間、かぐや姫は女児から少女へと、少しだけふくよかに変貌する、その描写はやわらかく繊細である。そして少女となったかぐや姫は、十二単(=イチジクの葉)で厳重にからだを覆い、都(=失楽園)へと向かう。
都は、愛欲と嫉妬の渦巻く「穢れ(=原罪)」た世界であった。ここで穢れにまみれることがかぐや姫の受罰であり、日々虚栄に満ちた求婚が繰り返される。やがて疲れ果てたかぐや姫は故郷へと逃げ帰るが、すでに里山は枯れ果て、そこには色を失った一面の銀世界が広がるばかりであった。その雪原に寝そべり、「私、ここを知っている」とかぐや姫はつぶやく。
失意のうちに都へ戻ったかぐや姫は、ついに帝の求愛を受けるに至る。そしていよいよ進退窮まったその瞬間、罪は赦され、やがて月から迎えの使者が訪れることとなる。
月は、悲しみも苦しみもなく穏やかに永遠を生きられる楽園である。しかし、理想であるはずのそこからやって来たのは、はたして色褪せた空ろな姿の使者達だった。かぐや姫が雪原で思い出したように、月とは色のない世界だったのだ。
そして、地上での穢れにまみれるという受罰をねぎらう使者に対し、かぐや姫は「人間は、穢れているからこそ、美しい」のだ、と決然と言い返し、月へと帰っていく。
続きを読む【ゲストブックレビュー(3月マンスリー企画)】 MDの巨人お薦め、思考を刺激する図書(第1弾)
MDの巨人「Tさん」が、最近マーケティングを考える上で刺激になった本を紹介します
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『砂糖の世界史』 川北 稔(著)
意外かもしれませんが、今のマーケティングが気づき強化していくべきシステマティックな視座を強烈に与えてくれる本です。一言でいうと、”Where are we?” のとらえ方。時系列見方、geographicalな見方、そして不可逆な価値変化と新たなリソース配分も。まさに、グローバル化とは何か、日本の強さは何か? 個々の企業の課題とアクションは何か?に示唆をもらえます。ジュニア新書というのがミソ。
今じゃ意識もしないコモディティーの砂糖ってかつては白いダイヤモンドと言われていた。産業革命時にお砂糖は労働者のエネルギー源になっていた。コーヒーやお茶文化と深く関わっている。お砂糖という切り口で歴史をシステマティックに見ていくと凄い発見がある。
『英国一家、日本を食べる』 マイケル・ブース(著)
普段、気が付いていない当たり前の強み・ユニークネスを知る。
グローバルとは出ていくだけではない。グローバルの視点をもつということ。これは日本料理なんてと思っていたイギリス人が、その凄さに目覚めていく過程を描いていて面白い。
例えば、昆布ダシから生まれる旨み。彼は遡って北海道まで行く。そこにインプットされている人々のキモチとエネルギーにも圧倒される。日本の強みをわかってもらうヒントが沢山あります。。 有名どころの料理屋も固有名詞付きで出てきてシズル感ある体験談です。
【ゲストブックレビュー】営業目線、MDふかん目線、美人目線で教えてくれる珠玉の3冊
営業、スタッフ管理などに長けた、iさんのレビューです。
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営業を18年経験したあと、MDに異動して、「クリエイターの価値づけ」や「MD系子会社の設立、運営」などの仕事をしてきました。
営業も楽しかったけど、こっちにはまだまだ知らない世界があって、未だに毎日刺激を受けています。
①「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う」 尾形真理子
http://books.rakuten.co.jp/rb/6876110/
異動してCDCの担当になり、そこで尾形真理子という素敵なコピーライターと出会いました。
彼女が書くルミネのコピーは、ひとりの生活者として大好きで
渋谷の駅に毎月張り出されるポスターを楽しみにしていました。
出会って半年くらいして、彼女の初小説本が出る、ということで真っ先に読ませてもらったのですが、
その時の衝撃がすごかった。彼女の、人を丁寧に見つめる視線や、心のひだにすっと入ってくる言葉の数々。
クリエイターの才能というのは、なんて無限で素晴らしいのだろう、と感激したのを覚えています。
私の、クリエイターをはじめとしたMDの方々に対するリスペクトの気持ちを改めて再確認できた出来事でした。
装丁は、上岡真弓さん。最近、文庫本もでましたが、やはりこの装丁で読みたいです!
②「つくることばいきることば」 永井一正
http://books.rakuten.co.jp/rb/11586549/
言わずと知れた、グラフィックデザイン界の大御所、永井一正先生の本です。
今年で御年85歳。何度かお会いしたことがありますが、凛として静かな空気をまとった、とても素敵な方です。
70歳を過ぎてから、なんとカルチャーセンターで銅版画の技法を学び、あとは独学で作品を作り上げられてきたとのこと。
彼のライフワークでもある「LIFE」シリーズの一環で、動物や自然をテーマにした銅版画作品と一正先生の言葉がセットになった本です。
この本出版のトークショーでは
「人間が感じる五感というのは、自然に内在されている。デザインは、五感で感じたものを自分の中で内包して組み立てる作業で、
クリエイターによって、組み立て方に個性があるのです。同時にアートと違って機能を持っている。目的があると思っています。」
とおっしゃっていました。
実際の版画も非常に緻密かつ大胆ですばらしく、私の家の玄関には、この本に入っている版画2枚セットが飾ってあります。
この本を読むと、五感を研ぎ澄ませて「クリエイション」と向き合う一正先生の姿勢がひしひしと伝わってきて、背筋を伸ばしたくなります。
装丁は、息子である永井一史さんです。
③「私はこうして受付からCEOになった」 カーリー・フィオリーナ
http://books.rakuten.co.jp/rb/5191141/
元ヒューレットパッカード会長兼CEOのフィオリーナ女史の本。
実はあまり「ビジネス書」の類は読まないのですが、不動産会社の受付としてキャリアをスタートし、
HPの会長にまで昇りつめた女性としての生き様はどんな感じだったのだろう、ということに興味があり読んでみたら
なかなか面白くて、一気に読み進めてしまいました。
女性の経営層への登用が日本より格段に進んでいるUSですが、カーリーの時代はまだ「女性である=能力が劣る」という
あからさまな偏見が横行していたそうで、さまざまなタフな状況が出てきます。
この本は、原題が”Tough Choices”となっていて、内容は彼女のサクセス・ストーリーでも、泥沼のCEO解任劇の裏話でもなく、
誰もが仕事をしていく上で抱える、人間関係やキャリアで困難な壁に当たったときにどのように乗り越えてきたのか、
諦めそうになったときに、自分をどう奮い立たせてきたのか、ということが語られていて、好感の持てる読後感でした。
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iさん、ありがとうございました。
【遂に登壇!3PL総帥お薦め;思考力を高める厳選3冊!】
正統派の堅い本は他のレビュワーの方にお任せするとして、私は寝ころんで読める本、ざっと読んでもOKな本、だけどときどき読み返したくなる本を紹介します。
一通りの企画の方法論も身に付けた、自分なりの成功事例もあり、一緒に仕事をできる仲間もいる。こういう段階に達したとき、よく起こるのはこんな状況だ。目の前の課題に答えは出し、企画をまとめたものの、抜けた感じがしない、周りも「その通り」といいながら反応も今ひとつ。これはこれで仕事は進むのだが・・・。
客観的に見れば、ステレオタイプの罠にはまり、出口が見えず、行き詰っている状態といえるだろう。上司も最早手取り足とりは教えてくれない。自分で考えろ、頭で汗をかけ。その通りだが、そうやっても埒があかない気がする。そんなときに頼りになるのが「知的複眼思考法」(苅谷剛彦)だ。P270以降をざっと読んで欲しい。「関係論的なモノの見方」「逆説の発見」「<問題を問うこと>を問う」。知らず知らずのうちにはまる「常識」や「正解」という幻想を取り払う頭の使い方を示してくれている。一読するだけでなく、身に付くまでチェックリストとしていつも手元に置いておくことをお薦めする。個人的な経験で言うと、スタックの原因として多いのは「<問題を問うこと>を問う」ことを怠っている場合。問題そのものを疑うことは、勇気とエネルギーが要るが、最もパワフルな思考だ。
その実践版ともいえるのが「鈴木敏文の統計心理学」(勝見明)。多少強引な例もあるが、ビジネスデータをどう読むのかという点では例が多くわかりやすい。「陰陽両面的思考」(P74)というのは、まさに「逆説の発見」のために大事な視点だ。商品が売れているということは買い手の「不満足」も増えているということ、という見方などは「商いの本質」をつき、はっとさせられる。「分母を変える」(P118)ということは「<問題を問うこと>を問う」のいい例だと思う。冷やし中華は世の中的には8月に最も食べられるが、CVSでの売りのピークは6月下旬~7月上旬。一般論に引っ張られずに、顧客を冷静に見るというのは、まさに問題の問い直しだ。
この本では「商売は経済学でなく、心理学で考えろ」という話も出ているが、そこに合致するのが「行動経済学」だろう。「ファスト&スロー」(ダニエル・カーネマン)はノーベル賞受賞であまりにも有名。サンクコスト(下P167)、アンカリング(上P76)、ピークエンドルール(下P218)等。人間の必ずしも合理的でない判断(専門的には限定合理性というそうだ)が、これでもかと出て来る。企画の世界では暗黙知にされていたものが科学の目で検証されている感じだ。おそらく今後データが増えれば増えるほど、人間の限定合理性が顕わになり、そこを捉えるのが我々プラナーの仕事になるだろう。「私の履歴書」で、マーケティング界のドン・コトラー氏も行動経済学はマーケティングの別称だと言っていたが、まさにそうだろう。企画に携わる人の基礎的な素養になっていくと思う。
3冊とも気になったところを、どこから読んでもいい本であり、ぱらぱら時々眺めるように読むことをお薦めします。(ジャングル・ジムの住人)